2020/05/24

中国汚染食品-毒入り粉ミルク事件再発か!


( 2020.05.24 )

● 中国・湖南省で中国製粉ミルク事件再び!


 中国湖南省で最近、あるブランドの粉ミルクを飲んだ複数の幼児に、頭蓋骨が変形して大きくなる「巨頭症」が現れた。

 中国メディアの「湖南経済TV」は、湖南省郴(チン)州市永興県の複数の親が先日、子供の体に発疹が出て、体重が著しく低下しているほか、頭蓋骨が変形してぬいぐるみの人形の様に大きくなっている事に気付いたと報じた。

 病院は、「くる病」と診断し、これらの幼児は全員「倍氨敏(ベイアンビン)」の「特殊医学用途配合粉ミルク」を飲んでいたことが判明した。
 この粉ミルクは実際には一種の個体飲料で、特殊医学用途配合粉ミルクとしての条件は備えていなかった。

 幼児らは、健康診断で牛乳アレルギーと診断されたため、医師がアミノ酸粉ミルクを勧めたと報じている。

 乳児の親はその後、粉ミルクを買うために病院脇のベビー用品店に行くが、最終的に倍氨敏ブランドの粉ミルクを購入した。ある親は、製品の「個体飲料」という表示に疑問を抱いたが、店員は「倍氨敏」は店で一番売れている最高の粉ミルクで、アレルギー疾患を持つ赤ちゃんは、皆これを飲んでいると勧めた。

 この事件は、世論の怒りを呼んでいる。郴(チン)州市で同類の事件が起きたのはこれが初めてではなく、前回の「偽ミルク」による「巨大な頭の子ども」が出現してからまだ1年もたっていない。

 2020年3月30日に、十数人の保護者が連名で地元政府の公式サイトで政府に対する要望書を投稿し、巨頭幼児の偽粉ミルク事件の適切な処理を求めた。
 2019年の時点でチン州では最初の大きな頭の赤ちゃん事件が発生していたと述べている。

 今回の事件のすべての原因は、郴(チン)州児童医院の医者が、この粉ミルクを推奨したために起きたとして、郴州児童医院の医師が長期にわたり、病院内の薬局と病院の真向かいにある母子用品ショップとが結託し、「固体飲料」を「特殊医学用途配合粉」として同病院に診察を受けに来た牛乳アレルギーの小児に推奨・販売したことが原因としている。

 保護者らは、専門家による幼児の検査実施と、検査項目、指標、目的などを保護者に伝え、専門家がプロセスを踏んで実施し、署名確認をした検査結果を提示するよう求めた。

 郴州市の市場監督管理局では、すでに対象患者の健康状態の検査を指示し、衛生総合監督局は関連病院と事件に関わった医師に対し調査を進め、虚偽の宣伝を行った違法行為者に対して厳しく法に基づき行政処罰を行うとしている。

 中国では04年の偽物の粉ミルク問題を皮切りに、08年のメラミン粉ミルク事件、11年にも偽粉ミルク事件が起きている。



( 2011.02.17 )

● メラミン粉ミルクの次は「革牛乳」が問題に !


 2011年2月12日、中国農業部は通達を出し、牛乳の品質検査を実施するサンプルの30%に「皮革たんぱく粉」の有無を調べる検査を実施するよう求めた。16日付で米華字ニュースサイト・多維新聞が伝えた。

 2008年に多数の乳幼児に健康被害を与えた粉ミルク事件で「メラミン」に対する取り締まりが強化された中国で、今度は牛乳に混ぜられた「皮革たんぱく粉」が人々の健康を脅かしている。その存在が初めて指摘されたのは2005年のこと。当時の呉儀(ウー・イー)副首相の指示のもと、一旦は消えたはずだったが、2009年3月に浙江省のメーカーが生産した乳製品から再び検出され、社会を震撼させた。

 「皮革たんぱく粉」は古い皮革製品や動物の体毛を溶かして粉状にしたもので、メラミン同様、乳製品のたんぱく質含有量を多く見せることができる。毒性の強い「六価クロム」の1種の重クロム酸カリウムや重クロム酸ナトリウムが含まれ、人体に吸収されると体内で分解されずに蓄積し、関節肥大などの中毒症状を起こす可能性があり、死に至ることもあるという。

 中国農業部はまた、サンプルのすべてにメラミン検査を実施するほか、発がん性の強いかび毒であるアフラトキシンM1や鉛の含有量を調べる検査も実施するよう求めている。



( 2010.10.13 )

● 中国偽物事情・日本製粉ミルクの空き缶を高値買い取り!


 2010年10月12日、南方日報は記事「日本製粉ミルクの空き缶を10元もの高値で買い取り=ニセ製品作りのためか」を掲載した。

 母親のためのネット掲示板に、「有名ブランド粉ミルクの空き缶を買い取ります」との広告メッセージが頻繁に書き込まれるようになった。その多くは「日本製品以外は不要」と強調。1個10元(約120円)もの高値を提示している。

 空き缶の買い取りはニセモノ作りのためとみられている。輸入粉ミルクは複雑な密封方法を採用しており、ゼロからニセモノを作るとコストがかさむ。そのため空き缶を利用するケースが考えられるという。

 2008年のメラミン汚染粉ミルク事件で、中国製粉ミルクの信頼性は地に落ちた。子どもの健康のためにと高い外国製粉ミルクを購入する親も多いが、そこに目を付けたのがニセモノ業者。ある消費者はネットで買う場合には安過ぎる商品に注意するべきだと指摘。信頼できる売り手から買う必要があると話している。



( 2009.04.27 )

● 中国製粉ミルク、メラミンの次は発がん性皮革?


 2009年4月26日、「都市快報」が、浙江省渓蘭市にある「金華市晨園乳業有限公司」生産の乳製品から、発がん性があるといわれる皮革加水分解物が検出されたと報じた。同社がたんぱく質含有率を高めるためにこれを混入した可能性が高く、「三鹿メラミン粉ミルク事件」の直後の悪質な事件だけに、当局も厳しい姿勢で捜査に臨んでいるという。

 同紙によると、今年2月、粉ミルクのたんぱく質含率を高める目的で、同社が違法に「皮革たんぱく粉」を添加しているとの匿名の告発が当局にあったことから、事件が明るみに出た。3月18日、同社が生産する乳飲料と原料加工品のうち8回の出荷分に対して品質検査が行われた結果、乳飲料と原料加工品から皮革加水分解物が検出されたという。

 また同紙は、皮革加工工場から出る皮革廃棄物を原料とした皮革加水分解物が使われていた可能性を指摘した。皮革廃棄物に含まれる二クロム酸カリウムと二クロム酸ナトリウムが体内に吸収されると、体内で分解されずに蓄積し、関節肥大などの中毒症状を起こす可能性があり、死亡する場合もあるという。同物質はメラミンより検出が難しいという専門家の指摘も紹介している。

 同社の1日あたりの生産量は70トン、年間売上高は1820万元(約2億5900億円)で、同市では比較的大規模な食品生産企業だ。



( 2009.01.03 )

● 中国製汚染粉ミルク被害者の救済訴えた家族、警察に拘束される!


 2009年1月2日、英・BBC放送中国語サイトはメラミン汚染粉ミルクの後遺症研究の必要性を訴えた被害者家族が警察に拘束されたことを報じた。

 1月2日、メラミン汚染粉ミルクの被害者家族は北京市街頭で後遺症研究の必要性を訴える記者会見を開いた。もともとはホテルでの記者会見を予定していたが使用が禁じられたという。また前日には参加者5人が警察に拘束された。その理由については明かされていない。AFP通信によると、記者会見現場付近にはパトカー3台が集まっており、私服警官が会見の模様を撮影していたという。

 先日、メラミン汚染粉ミルクを販売していた乳製品企業22社は携帯メールを通じて謝罪文を発表した。また賠償金の支払いについても協議が進んでいる。一方で、一部メディアが「メラミン被害者の無料治療打ち切り」を報じたように、被害者家族の間には今後のケアが打ち切られるとの不安も広がっている。衛生部の毛群安(マオ・チュンアン)報道官は報道内容を否定、現在各地の病院でとられている緊急医療体制は解除されるものの、メラミン汚染粉ミルクに基づく問題が確認された場合には今後も無料治療を行うと約束した。



( 2008.12.02 )

● 中国製粉ミルク事件は最悪の人災、被害乳児は29万人に!


 2008年12月1日、中国衛生部はメラミン汚染粉ミルクの被害乳児数を発表した。29万人が泌尿器系統に結石が発生したほか、11人が死亡していると新華社が伝えた。

 被害乳児数は9月10日から11月27日までの報告を合算した。発表によると、29万人が治療を受け、入院患者数は述べ5万1900人に上った。今なお861人が入院している。重症患者数は154人。11人が死亡したほか、6人の死亡が汚染粉ミルクの疑いがあるという。

 なお山西省、江蘇省、広東省、新疆ウイグル自治区、甘粛省で死亡した乳児5人は汚染粉ミルク問題とは無関係だと判明している。

 中国・衛生部によると、事件発生から2か月が経過、患者の多くは治療が終了し患者数は減少傾向を示しているという。メラミン汚染粉ミルク問題は五輪前には発覚していたとも伝えられ、対応の遅れが被害者数の拡大につながったと指摘されている。29万人という空前の規模の被害となっただけに、責任の追及と防止策の徹底など今後の対応が注目される。



( 2008.09.14 )

● 中国製粉ミルクで有害物質メラミン使用発覚!


  中国遼寧省の省都瀋陽のスーパーマーケットで、河北省石家荘のメーカー「三鹿集団」製の粉ミルク、このミルクは有害物質メラミンで汚染されており、飲んだ乳児が腎臓結石になるなどの健康被害を引き起こした。

 健康被害は約29万6000人に広がり、6人が死亡したとされる。 牛乳を水で薄めたことをごまかすため、にメラミンを混入してたんぱく質含有量を高めたものを原料に使っていたためで、原料を製造していた業者が逮捕され、そのうち2人が死刑になった。



( 2004.05.26 )

● 中国製・偽粉ミルク事件!


 2004年4月、安徽省阜陽市で少なくとも13人、また同省内では50~60人以上の幼児が偽粉ミルクを飲み栄養失調で死亡した(中国語で「阜陽劣質奶粉事件」と呼ばれる)。

 ほかに同省内の100~200人の幼児も栄養失調に陥ったが辛うじて命を取り留めた。阜陽市の偽粉ミルクの製造、販売の責任を負っていた47人の公務員が逮捕され、調査員により阜陽市の食料品店で45種類もの他の偽商品が見つかった。この事件では141以上の工場が偽粉ミルクの製造に関わり、中国政府は4月中旬までに偽粉ミルクが入った2540のバッグを押収した。国家食品薬品監督管理局は2004年5月に調査を開始した。

 医師によると、ある幼児は巨頭症を患っていた。幼児は粉ミルクを飲んで3日以内に頭部が膨張し、栄養失調のためやせてしまった。国が定めた基準ではタンパク質を10%含まなければならなかったが、偽粉ミルクはわずか1~6%しか含んでいなかった。政府は遺族に対する賠償と被害者家族の医療費を援助することを約束した。









2020/05/22

ありがとう、聖マリアンナ医科大学病院そして全国の医療従事者の皆様!


( 2020.05.22 )

● 聖マリアンナ医科大学病院、コロナと戦う医師と看護師!


[川崎市(神奈川県) 5月22日 ロイター]

 エンジンをかけたままの救急車から、2人の救急隊員が素早く降り立ち、新型コロナウイルス感染が疑われる女性を乗せた担架を慎重に下ろした。小さな顔に酸素マスクをつけた高齢の女性を隊員ら医療スタッフが手慣れた様子で病院内に運び込む。その直後、救命救急センターには新たな患者が到着した。

神奈川県の聖マリアンナ医科大学病院。新型コロナが世界で猛威を振るう中、同病院は他の医療機関が拒否した患者を次々と受け入れ、この感染症と戦う医療最前線の象徴的な存在となっている。

ロイターは数日にわたり、同県川崎市宮前区にある同病院の救急救命センターを取材、新型コロナ患者の治療にあたる専門チームに密着した。

同チームで働く医師や看護師たちは、時には防護服に身を固め、人生が絶望へと暗転しかねない患者の治療に格闘している。緊急事態宣言が徐々に解除され、病院の外では通常の生活が戻りつつあるが、取材から見えてきた病院の姿は異なる世界だった。

未曽有のパンデミック(世界的な大流行)から人々を守るという強い使命感とともに、彼らには残酷なまでに希望を奪い取るウイルスと、この先も数カ月にわたって戦わなくてはならない、という諦めのような思いも感じられた。異常な日々が常態化する中、医療スタッフの1人は、生と死が予測できたコロナ前の日常をほとんど思い出せない、と語った。

コロナ禍を封じる最後の砦である医療現場では、終息の兆しが見えない現実が今もなお続いている。


<「我々が逃げたら、誰がやるのか」>

各種のデータを見る限り、日本は他の多くの国より、このパンデミックにうまく対応してきた。他国のような感染者の急増はみられず、4月中旬以降は新規感染者が減少傾向にある。これまでに確認された感染者は1万6000人超。世界で30万人近くが亡くなる中、死者は777人にとどまっている。

4000人近い乗客を乗せて横浜港に停泊中、集団感染を起こしたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」。その患者を率先して受け入れたのは聖マリアンナ病院だった。以来3カ月、同船を下船した乗客も含め、同病院は新型コロナ患者を積極的に治療してきた。特にICU(集中治療室)に収容した重症者と中症者の数は、国内の病院では最多規模の約40人に達している。

緊急を要する重症者は駐車場に設置したテントで気管挿管することもある。容体次第では、透明ビニールに囲まれた手術室に運び、気管切開を行う。ICUの中では、防護服に身を包んだ看護師が6人1組となり、何本ものチューブで様々な救命器具につながれた患者の姿勢を変える作業に当たる。

疫病を防ぐとされる日本神話の妖怪「アマビエ」のイラストが貼られた院内では、日夜を問わず、新たな感染症と戦う緊張とあわただしさが交錯していた。

センター内の廊下と病室は緑、黄色、赤に色分けされている。人の流れと感染リスクをコントロールするためだ。

一般のマスクで立ち入り可能な「緑ゾーン」、検査結果が出ていない患者の病室などがある「黄色ゾーン」、重症患者を収容し、宇宙飛行士のような防護服と電動ファンがついた特別の呼吸器を装着する必要がある「赤ゾーン」。医療スタッフはそれぞれのゾーン担当を交代しながら勤務にあたる。

だが、異常事態に慣れた医療スタッフばかりの同センターでも、当初、新型コロナウイルスの患者を積極的に受け入れようと説得するのは容易なことではなかった。

「救命センターで全部やるぞって言ったら、看護師も医者も、なぜウチだけがやらなければいけないのか、と言い出した」と、同病院の平泰彦・特任教授(救急医学)は話す。同氏は常に「他に行き場のないコロナウイルス患者を引き取る義務がある」と念を押していたという。

このコロナウイルスの特別な危険性を考えれば、スタッフが及び腰だったのは無理もなかったと平教授は言う。

「(コロナ)にかかる確率は高い。だけど医者になった以上、仕方がない」。そして、スタッフにはこう付け加えた。「自分たちが逃げだしたら、一体誰がやるんだ」


<患者・家族からの手紙>

同病院では毎朝8時、夜勤明けの医師が1人ずつ、取りまとめ役の医師のもとにやって来て、数字や略語を読み上げる。ICUに入院する患者11人の容態についての報告だ。使い込んだPHSを片手に、手狭な廊下を歩いてきた藤谷茂樹・救命救急センター長が報告の場に顔を出した。

「今朝も1人の患者が亡くなった」と藤谷センター長は記者に告げ、ホワイトボードに近づいた。ボードにはマスキングテープがマス目のように貼られ、左側の枠には重症者(そのほとんどが50代、60代)の名前、その横にはここ数日の治療経過が詳しく書き込まれている。

4月5日、6日、8日、12日に患者が入院したことを示す記録、入院前あるいは入院後すぐに気管挿管を行った記録、「アビガン」の試験的投与の記録、人工心肺装置を装脱着した記録などが書かれていた。

その朝に死亡した男性の名前はすでに除かれ、ICUには合わせて3つの空きベッドができたが、藤谷さんは、夕方までに埋まってしまうだろうと語った。

藤谷さんが急に表情を変えた。休憩室でマスクをずらしたまま会話をしている看護師たちを見つけたからだ。

「話すときはマスクをして!」。藤谷センター長は看護師たちに近づき注意した。「そういう気のゆるみが院内感染を起こすからね」。

休憩室の一角にあるボードには、先月亡くなった患者の家族から送られてきた手書きの手紙が貼ってあった。「こんなに辛いことが起こるとは、思いもよりませんでしたし、いまだ実感が持てずにいます」。家族の重い気持ちとともに、医療スタッフへの感謝の言葉もしたためられていた。


<ぬぐえぬ無力感、蓄積するストレス>

ナースステーションにあるモニターの画面は、壁の向こう側のICU内にいる患者の様子を映し出している。

「全然良くなってないです。見かけ上は良くなってますけど」。応援のためセンターに派遣された小児科医はコンピューターの画面に映し出されたデータを見ながら、そう語った。

「数週間ずっと、症状が何も変わらなくても、急に容体が悪化するというのはよくあります」と、藤谷センター長は自分のオフィス内を歩き回りながら語った。「治ってくれるのなら頑張ろうと思うけど、すごく力を注ぎこんできたのに亡くなってしまったら、無力感を感じる。みんな治すつもりでやっているんだから」。

ICUで治療を受けた患者のうち、これまでに1人が補助器具なしで呼吸できるようになった。しかし、無事にICUを出たとはいえ、完全に回復するかどうかはまだ分からない。

藤谷センター長は、4月に自殺したニューヨークの救急医について語った。その女性医師は何十人もの新型コロナ患者が死んでいく姿を目の当たりにしたという。

「こんな状態が2カ月、3カ月に及んでいるから、かなりストレスはかかっていると思う」と、藤谷さんは言う。


<ICUの収容能力は限界>

正午過ぎ、前の晩からの徹夜勤務を終えた森川大樹医長は、東棟のコンクリート階段を上り、壁に大きなスクリーンがかかる会議室に入った。各科の責任者が、ここで新型コロナへの対応状況を報告し合う。

感染した疑いのある患者2人について、やり取りが始まった。「2人ともマイナス(陰性)でした」。「じゃぁ、もうロールアウト(一般病棟に移す)して大丈夫?」

「1人は大丈夫なんです」と森川医長が答える。「けれど、もう1人は濃厚接触者といた人なので、すぐには除外できません」。

会議を主催していた藤谷センター長が、その1人をセンターに残すという指示を出した。

森川医長は会議が終わると、カラフルな表を広げて見せてくれた。新型コロナの治療に当たる自身のチームを含めたICU内の勤務シフトだった。

「はじめは救急(担当チーム)だけでやっていたんだけど、パンクしてしまうということで、外科とか循環器内科とか(他の担当部門)から4人入れているんです」と森川さん。

「現在は最大で15人のコロナの患者を診る体制でこうなっているので、これ以上増やすというのには限界があると思う」

ある時、ICUの能力すべてを新型コロナ患者に集中するべきではないか、という議論もあった。しかし、その提案は通らなかった。

「コロナじゃない他の患者はどこが診るのか。そういう問題もあった」と、森川医長は話す。同センターでは新型コロナの重症者向けの15床に加え、地域の医療機関として果たさなければいけない役割がある。2月以降、コロナ患者に対応しながらも、心臓発作や脳卒中などの重症患者も診療している。


<家族との別れはiPad越し>

病棟の扉の外で、診療看護師の小波本直也さんが大きなため息をついていた。

「もう終わりが見えない」と、1カ月前に新型コロナ対応チームに加わった小波本さんは患者のことを語り始めた。

「良くならないんですよ。治療反応がない。挿管したら8割が亡くなるというデータもありました。だけど、どうしてもこの患者さんは(ご家族に)つなげてあげたいと思うんです」

医師が患者の最期が近いことを察知すると、小波本さんは家族に電話をかけ、病院に呼ぶ。家族は患者の側には行けないが、iPadのアプリ越しに声をかける。

手袋を二重にはめ、フェイスシールドとマスク、ビニール製ガウンを重ね着した小波本さんは、もうすでに意識がない患者にiPadを近づける。家族は思い出を共有し、最後の別れを告げる。

「お父さんは頑張っていますよ、早く帰れるように頑張っていますよ、とご家族の皆さんには伝えます」。小波本さんは息を引き取りつつある患者に語り続けた。

担当医師が死亡診断を下す様子もiPadで遺族に伝える。最後の別れをしたいと希望する遺族には、小波本さんが亡くなった人の写真を自分の携帯で撮影して送ることもある。

故人が飾っていた家族の集合写真を見たり、家族との手紙を通して「(その患者が)どういう人だったのか想像できる。」と小波本さんは言う。「(TV電話などで)患者と家族をつなげられるということが一つの癒しにはなっていますね。」


<帰宅しても子供とは別々>

夕方、救命救急センターの重症患者看護専門の看護師、津田泰伸さんと小原秀樹さんがスタッフエリアに座っていた。この日も2人は、コロナ患者の対応にずっと追われていた。

「家に帰ってからも、コロナ関連のニュースでやっていると見てしまいますし、(気を)抜く場所がない、離れられないという感じ」と看護部副師長の小原さんは語る。

部下の多くは、パンデミックの最前線で働くという「新常態」に適応しなければならなかった。ある女性看護師は夜に帰宅し、家族に夕食を作る。しかし、子供たちが感染するリスクを避けるため、食べる時は別々だ。

津田さんには生まれたばかりの子供がいる。帰宅して玄関で子供の顔を見ると、安らぎとともに、抱き上げたいという衝動がこみ上げる。

「でも、抱っこしてあげたいけど、(感染が心配だから)そうしてあげられないな、と思ってしまう」と津田さん。

津田さんは、帰宅するとすぐ新しいマスクに取り替える。家でもマスクをしているため「子供は、私の顔を全然知らないかもしれない」と話す。


<あと1年は続く>

多くの国が封鎖措置を終わらせようと模索する中、聖マリアンナ病院の医療スタッフは、世界中のICUで働く人々と同じく、終わりが見えない現実に向き合おうとしている。企業は経済活動の再開を切望し、市民の多くも元の生活に戻ることを望んでいるが、それによって感染者がどれほど増える危険があるのか、最前線の医療従事者にも分からない。

「もうすでに戦いが3カ月以上にわたり、そして外出制限などもあり、相当なストレスを感じている医療従事者も多くいると思います」と藤谷センター長は病棟の廊下で語った。「その人たちのストレスをいかに軽減させながら戦っていくか、というのが今後の課題です」

津田さんは、自分のチームに防護服と呼吸器が必要な「赤ゾーン」担当の順番が回ってくる前からスタッフたちに注意を促しておく。心の準備を万全にするためだ。シフトの前日は、安全手順を復習したり、防護服で作業したときの暑さと疲労を想像し、不安の中で時間を過ごすことになる。

「自分が(疲れて)弱っているというのは、たぶん皆が言いづらいし、私もかなり言いにくいですよ」。津田さんの話をさえぎるかのように、彼の電話が鳴った。

看護師としてのシフトが終わっても、津田さんにはまだまだ仕事が残っている。同僚とともに、看護スタッフの新たな安全マニュアルを作り始めた。津田さんが病院を出るのは午後11時近くになりそうだ。

こうした生活は「あと1、2カ月とは思っていない。1年くらいとか続くだろうなとみています」と津田さんは言う。

夜が更け、人影が減ったセンター内に静けさが広がる。聞こえてくるのは、ICUの患者たちにつながれた無数のモニターが発するホワイトノイズだけだった。











2020/05/15

中国がWHOの「パンデミック宣言」を遅らせた理由!


( 2020.05.15 )

● 中国がWHOの「パンデミック宣言」を遅らせた理由!


 米国・CIA(米国・中央情報局)が「中国はWHOに圧力をかけて世界中のマスクや防護服を買い漁った?」との疑惑を指摘した。

<中国はWHOの「パンデミック宣言」を遅らせて、その間に自国で必要な医療品を数十億点も緊急輸入した疑いが浮上。世界はそのために今もマスクや防護服の不足に悩まされている可能性が高い>


 CIAの調査によると、中国は昨年末、新型肺炎の集団発生に気づいた時点で、世界保健機関(WHO)に圧力をかけて緊急事態宣言(パンデミック宣言)を先送りさせ、その間に世界中からマスクなどの医療用品を大量にかき集めた──CIAの調査でそんな疑惑が浮かび上がった。

 WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」宣言を出したら、各国が医療用品の輸出を差し止めかねない。それを恐れた中国は、宣言を発出したら、新型ウイルスに関する調査に協力しないとWHOに脅しをかけた。CIAの調査チームはそうみている。

 先にドイツの情報機関も同様の報告を行っている。世界で30万人超、アメリカで8万人超の死者を出している新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)をめぐって、米中が繰り広げる鍔迫り合いは、この疑惑でさらに激化しそうだ。

 ドイツ・シュピーゲル誌が先週報じたドイツの情報機関の調査は、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が、1月21日に個人的にテドロス・アダノムWHO事務局長に宣言の延期を要請したと結論付けている。



<原則論を盾にするWHO>

WHOの報道官は、習主席は介入していないと断言したが、宣言を繰り延べるか内容を変更するよう、中国当局から働きかけがあったかという質問には回答を避けた。

「加盟国との特定の協議についてはコメントできない。だがWHOはこのパンデミックでは一貫して、エビデンス(科学的根拠)に基づく技術機関としての権限を行使し、あらゆる地域の全ての人々を守る任務に専念している」と、WHOのクリスチャン・リンドマイヤー報道官は語った。

 「WHOは科学、公衆衛生上の最善の慣行、エビデンス、データ、独立した立場の専門家の助言に基づいて勧告を行う」

 リンドマイヤー報道官はまた「1月21、22、23日にはテドロス事務局長は、習近平とコミュニケーションを取っていない」と断言。テドロス指揮下の「上級チームが1月28日に北京で習主席と会合を持ったが、その場ではPHEIC宣言については何も話し合われなかった」と付け加えた。



<「中国のパイプオルガン」>

 WHOは1月30日にPHEIC宣言を行ったが、その際にテドロスは中国の初期対応を称賛し、長々と擁護した。
「はっきり言おう。この宣言は中国に対する不信任投票ではない。その逆だ。WHOは集団感染を制御する中国の能力を引き続き信頼している」と、テドロスは語った。

 これには欧米諸国から怒りの声が上がった。ドナルド・トランプ米大統領は、WHOの「中国中心主義」に激しくかみつき、4月14日に資金拠出を停止して調査を行うと宣言した。

「WHOの責任逃れは信じ難い」と、トランプは先週またもや怒りぶちまけた。「彼らは中国の(プロパガンダを奏でる)パイプオルガンだ。この件については早急に決断を下す」

 中国の初期対応は世界中から批判されている。湖北省武漢で最初に集団感染が起きた時点で、異変に気づいて警告を発した医師らの口を封じたこと、中国外務省の報道官が、米軍がウイルスを持ち込んだと虚偽情報を流したこと。さらに、中国当局が発生初期の6日間、事実上の隠蔽工作を行なったため、武漢から大勢の市民が脱出し、結果的に世界中にウイルスがばらまかれたと、AP通信が伝えたことも、中国に対する不信感を募らせた。

 そのため中国当局が発表する死者数や感染率などのデータは、欧米ではあまり信頼されていない。ただ、武漢の研究所からウイルスが漏出したというトランプの主張も証拠がないため、まともに取り上げられていない。



<素早く緊急輸入に動く>

 中国外務省は、5月11日の定例記者会見でドイツ・シュピーゲル誌の報道について質問が出た時に、外務省報道官は「1月21日には、中国の指導者とWHOのトップはそうした話を一切していない。電話でもしていない」と強い調子で否定した。

 「国連と中国──WHOは中国から恩恵を受けていないが、忖度している」と題されたCIAの報告書とシュビーゲル誌の報道以前にも、米国土安全保障省の分析で、中国は1月に情報隠しを行い、その間に世界中から医療用品をかき集めたと指摘されている。これについては、最初にAP通信が報じた。

中国の税関当局である海関総署によれば、1月24日から2月29日までに中国が輸入した感染防止の個人防護具は、20億枚超のマスクを含め25億点に上る。世界最多の人口を抱える中国は新型ウイルスの感染が拡大するなか、大量のマスクや防護服を確保すべく、外交ルートを通じて世界各国に働きかけ、緊急輸入の手筈を整えたのだ。



<支援者気取りに>

 しかし感染は世界中に拡大。中国に緊急輸出を行なった国々の一部は、マスクなど医療用品の不足に悲鳴を上げることになった。中国は国内の感染が収まると、アメリカをはじめ感染拡大地域に支援の手を差し伸べ、「マスク外交」を展開し始めた。

 中国が原因不明の肺炎について初めてWHOに報告したのは昨年12月31日。アメリカに公式に知らせ始めたのは1月3日からだが、人から人への感染を中国当局が認めたのは1月20日。これにより当初の想定より感染率が高いことが明らかになった。

 WHOはPHEIC宣言の発出について1月22日と23日に投票を行なったが、結論は見送られ、1月30日に3回目の投票で、ようやく緊急事態を宣言した。

 「WHO憲章(の第37条)には、『加盟国は事務局長および職員のもっぱら国際的な性質を尊重し、これに影響を与えようとしてはならない』と定めてある。グローバルな保健事業においてWHOの公平性と中立性を担保するために、このルールが不可欠だと、全ての加盟国が理解している」と、リンドマイヤー報道官は述べ、中国もルールを守っていると強調した。

 果たしてそうなのか。5月中旬時点で、新型コロナウイルスの感染者は、世界で約450万人、死亡者は30万人を突破している。