2017/05/15

中国発「バナナラッシュ」から見えた、一帯一路構想の果て!


( 2017.05.15 )

● 中国発「バナナラッシュ」で、ラオスが得たカネと代償!


 2014年に中国人投資家がラオス北部の静かな村にやってきたときのことを振り返り、村長(59)は笑顔を浮かべる。 ぼろ儲けができた、と村長は語った。

 彼ら(中国人投資家)は村人に、1ヘクタールあたり最高720ドル(約8万1800円)で土地を借りたいと申し出たという。ほとんどが長年休耕地だった場所で、バナナを栽培したいとのことだった。

 貧しいラオスにおいて、それは気前の良い話だった。「彼らは金額を告げ、これで満足かと尋ねた。私たちは、いいでしょうと言った」

 さらに、川沿いで道路アクセスの良い土地は、少なくとも倍の賃料で借り上げられた。


 その3年後、中国がもたらしたバナナブームは、ほとんどの村人の生活を変えた。だが、全員が笑顔でいる訳ではない。

 中国人は、ラオス北部に雇用をもたらし賃金も上がった。だが一方で、農園を殺虫剤と農薬漬けにしてしまったと専門家は指摘する。

 ラオス政府は昨年(2016)、バナナ農場の新設を禁止した。農薬の大量使用で労働者が健康を害し、水源が汚染されていると政府系研究機関が報告したことを受けての措置だ。

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中国は、アジアと欧州を結ぶ新シルクロード経済圏構想「一帯一路」の恩恵を自賛しており、その推進を狙って今年(2017)5月14~15日に北京で同プロジェクトの国際首脳会議を開く。

 中国は、「一帯一路」の経済圏構想で、自国投資家(中国系の企業も含む)に市場を開放するよう周辺国に要請している。これは、ラオスの貧しい村人にとっては、何かを得る代わりに別の物を失う「代償」を意味するようだ。

 バナナブームは、同構想が発表された2013年以前に始まったものだが、中国はすでに、ラオスでの農業開発をプロジェクトの一部とみなしている。

 「中国の投資で、私たちの生活は良くなった。食べ物も、生活の質も改善した」と、村長は言う。
 だが、彼や彼の隣人も、農園では働かないことにしている。 さらに、農薬の散布が行われているあいだは、決して農園に近づかないし、近くの川は、農園から流出した農薬で汚染されている可能性があるため、釣りをするのもやめた。

 中国人農園オーナーや管理者の一部は、ラオス政府による農園の新設禁止処置に不満を表明した。土地の賃貸契約が切れた後、バナナの栽培ができなくなるからだ。
彼らは、農薬使用は不可欠で、農園で働く人々がそのために健康を害しているということはないと主張した。

 あるバナナ農園の管理者は「農業をやるには、肥料や農薬が必要だ」と言う。彼の農園を所有するのは、ラオスでバナナ栽培を手掛ける最大手の中国企業だ。
 「私たちが来て開発しなければ、この場所はただのはげ山のままだった」。農園労働者が丘の急坂を登り、一束30キロのバナナを粗末な選果場へと運んでいく様子を眺めながら、彼はそう語った。

 中国外務省の耿爽報道官は11日の定例記者会見で、ラオスの中国系バナナ農園を巡る具体的な問題は承知していないとした上で、これを「一帯一路」構想と関連づけるべきではないと述べた。
 「原則的に、われわれは海外投資や事業を行う中国企業に対し、現地の法律や規則を尊重し、社会的責任を果たし、現地の環境を守るよう義務付けている」と同報道官は述べた。

 中国国営メディアによると、人口650万人を抱える内陸国ラオスにおいて中国は最大の投資国であり、総額67億ドル(約7621億円)に上る760件以上の投資プロジェクトを手掛けている。
 この影響が強く感じられるのは、中国資本がショッピングセンターを建設し、高級ホテルを運営する首都ビエンチャンだけではない。何十年ものあいだ目立った変化がなかった農村部にもその影響は及んでいる。

 中国人のバナナ投資家が、本国(中国本土)の土地不足のため、国境を越えてラオスに流れ込み始めたのは、2010年頃だったと現地の人々は記憶している。その多くが、この国で人口が最も少なく、面積も狭いボーケーオ県に向かった。

 その後の数年間で、ラオスのバナナ輸出は10倍に跳ね上がり、同国にとって稼ぎ頭の輸出品となったが、その大半が中国に送られている。

 国内で多くの土地所有者でもあるラオ族にとって、中国系農場は、自分で土地を耕作して得るよりも多額の賃料を支払ってくれた。

 さらに、モン族やカム族のような高地に住む貧しい少数民族にとっても、バナナラッシュは、労働の機会とより良い賃金を意味した。
 収穫期には、一日10ドルかその倍を手にすることができる。2015年の平均年間所得(世界銀行調べ)が1740ドルのラオスでは、相当な高給だ。
だが同時に、彼らは最も大きな農薬リスクにさらされている。

 中国系農園は主に、キャベンディッシュという種類のバナナを栽培している。消費者に人気だが、病気にかかりやすい。
 モン族とカム族の労働者は、成長するバナナの株に殺虫剤をまき、「パラコート」などの除草剤を使って雑草を駆除する。 「パラコート」は、欧州連合(EU)やラオスを含めた他の地域でも使用が禁止されており、中国では段階的に使用を減らしている。
 さらに、中国への輸送中に傷まないよう、収穫されたバナナは防かび剤に浸される。

 バナナ農園で働く人々のなかには、体重が落ちて虚弱になったり、皮膚病を患っている人がいる、とラオス北部を拠点に活動する非営利団体「開発知識の結束連合会」が指摘する。

 同団体は、その啓発活動の一環として、労働者に農薬使用の危険性についての知識を広めている。「私たちにできるのは、労働者の意識を高めることだけだ」と語る。
 これは困難な活動だ。使用されている農薬のほとんどは中国かタイから輸入されており、使用方法や注意事項はこれらの国の言葉で書かれている。
 仮にラベルがラオ語で書かれていたとしても、モン族やカム族には字が読めない人もいるため、理解できない。
 さらに、もう1つの問題は、労働者の生活環境が化学薬品に近いため、飲み水や生活用水が化学薬品に汚染されていることだとも指摘する。

 一方で、こうした「代償」を受け入れると話す人もいる。農薬のことは心配だが、高い賃金があれば、子供を学校に行かせたり、よい食べ物を買うことができるという。

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ラオス政府がバナナ栽培における農薬使用を取り締まっても、有害な化学物質が全て締め出されることになる保証はない。

 生産量が増えてバナナの価格が下落したため、中国人投資家のなかには、ほかの作物に切り替えた人もいる。その中には、多くの農薬を必要とするスイカも含まれる。

  ラオス・ボーケーオ県のバナナ農園の最大2割がバナナ栽培をやめたと推測され、より安価な労働力を求め、ミャンマーやカンボジアに移転した同業者もいるという。
 バナナ農園を共同所有する人の中には、ラオスの環境への影響は、すべての途上国が歩かねばならない道であり、地元の人は中国人に感謝すべきだ、「彼らは、『なぜわれわれの生活が改善したのだろう』とは考えない。天の恵みで、生活が自然に改善すると思っているんだ」と語る。


 まるでハゲタカの様に食い散らかし、化学薬品に汚染され不毛の大地と化した後は、次の獲物を探し飛び去って行く投資家たち、そこには金儲けだけが唯一の倫理観もない。

 長い未来を見れば、「すべての途上国が歩かねばならない道」であってはならない、あって良い訳がない。