2019/08/12

バングラデシュでも、デング熱の感染激増


( 2019.08.12 )

● バングラデシュでデング熱の猛威、深刻化

バングラデシュで、「デング熱」が猛威を奮っている。今年の5月、6月での感染者は1864名と、2018年の347名のすでに5倍以上である。7月に入っても、7月9日時点での感染者が1182名と、すでに2018年の7月全体の感染者946名を上回っている。

 米国・CNNでは、5、6月合計で2004名、7月に入って8348名、1月以来7月末までで感染者は1万3600名、うち死者8名とも報じている。

 そして7月3日には、現地の女性医師が死亡した。今年に入ってから3人目の死亡者だ。昨年以上の感染拡大が予想され、注意が必要だ。

デング熱は蚊によって媒介されるウイルス感染症だ。ほとんどが自然軽快し、特段に怖い疾患というわけではないが、しかし、5%程度がデング出血熱へ進行し、入院が必要なレベルとなる。 適切な医療ケアを受けていれば死亡率は1%未満だとされているが、重症化すると死に至ることもあり、まだ治療法はない。

 上述の亡くなった女性医師は、バングラデシュの有名病院に入院していたが、状態を回復することはできなかった。

さらに注意すべきなのが、デング熱は再感染した際に重症化しやすいという点だ。たとえば、デング熱ワクチン研究者である米国のスコット・ハルステッド医師の2018年の報告によると、デング熱初感染での重症例(出血熱またはデング熱によるショック)は1000人あたり11から12例であったのに対して、2回目の感染者では、1000人あたり118から208人と10倍以上の確率で重症例が発生していた。今後デング熱の流行が広まるほどに重症例が増える可能性がある。


■「気候変動」と「都市部人口増」で感染拡大か?

 しかし、バングラデシュ現地での危機意識は低い。医療関係者では話題になるものの、非医療者では話題にもならない。デング熱を他の風邪などの発熱と区別していない人も多い。

 確かに現時点では死者数が少なく、感染者数が例年の2倍と言われた昨年でも報告されている死者数は26人だ。しかし、報告されていない死者数も多いと考えられる上に、感染者数が増加すると再感染者数も増加するため、重症例は増加するだろう。

 バングラデシュでのデング熱感染拡大は、気候変動と都市化による影響が大きいと言われている。

 もともと6月から10月にかけてのモンスーン時期(雨季)、その後の12月までにかけて蚊が発生するため、過去のデング熱患者の99%がこの時期に報告されていた。しかし、バングラデシュの感染症対策機関担当者の報告によると、2014年から2017年までの、1月から5月までに報告された患者数は、2000年から2013年までの同時期平均と比較すると約7倍へと増加していた。

 バングラデシュ政府の発表によれば、1958年から2007年にかけてモンスーン時期の期間が短くなり、降雨量が減っている一方で、乾季の降雨量が増えているという。こうした気候変動により、蚊の発生期間が増えることが、デング熱の患者数増加につながっている可能性がある。

 さらに、都市化により人口密度が高くなっていることも感染症拡大の下地となる。国連が毎年公表している「世界人口推計(World Urbanization Prospects)2019年版」によると、バングラデシュの都市部人口の割合は2000年に24%、2020年には38%と増加し、より都市部へ人口が集中することが予想されている。特に首都ダッカの人口は、2020年には2000年の2倍以上となる2000万人を超えるとみられている。


■最重要課題は「昼の蚊」対策

気候の変化や都市部への人口集中に伴う患者数増加という現象は世界中で起きており、WHO(世界保健機関)の報告書によると、世界中のデング熱感染者数は、2010年には2200万人だったのが、2015年には3200万人に増加したと言われている。

 デング熱に感染したことがない人に対して有効なワクチンはまだ開発されておらず、デング熱の予防は蚊の対策をするしかない。

 蚊の対策としては途上国では蚊帳が普及している。これは、マラリア対策のためNGOや政府系機関による啓蒙が進んだためだ。

 しかし、マラリアを媒介する「ハマダラカ」(蚊の一種)は夜に人を刺す蚊であるのに対して、デング熱を媒介する「ヒトスジシマカ」(一般にヤブカとも呼ばれる)は昼から夕方にかけて人を刺す蚊である。したがって、デング熱を防ぐためには日中に虫除け剤をしっかり塗布することが重要だ。特に、「ディート」と呼ばれる虫よけ成分が有効で、長時間効果を持続させるためには30%以上含有された製品がおすすめだ。子供や、大人でもディートで肌荒れが起きてしまう人には、「イカリジン」と呼ばれる成分のものが良い。

ドイツ最古の大学である「ルプレヒト・カール大学ハイデルベルク」と、1972年にバングラデシュ復興のために設立された世界最大のNGO(非政府組織)「BRAC(ブラック)」が設立したブラック大学と共同で2019年に発表された研究によると、寝るときに蚊帳を使うかという質問に対しては98.5%が「いつも」または「ときどき」と答えていたのに対して、自身に虫除け薬品を使うかという質問に対しては63%が「使ったことがない」、家で蚊よけスプレーを使うかという質問に対しても81%が「使ったことがない」と回答している。バングラデシュでの感染拡大を予防するためには、虫除け薬品の使用など「昼の蚊」対策を普及させることも重要だ。


■潜伏期が最大で14日

他国での感染拡大は、日本にも無縁ではない。なぜなら、日本と海外の往来が増加しているからだ。

 日本政府観光局の発表によると、海外に出国した日本人数は、2018年に1895万人となっている。さらに増加が目覚ましいのが訪日外国人で、2018年には3119万人と、2008年(835万人)の3.7倍に増加している。

 また、在日バングラデシュ人の数は、2014年には約1万人であったが、2018年には約1.5万人へと増加している。

 飛行機内の蚊は殺虫剤で殺せるが、潜伏期が最大で14日程度もあるデング熱感染者の入国を止めることは不可能だ。

 実際に、2014年には70年ぶりに海外渡航歴のない女性にデング熱が感染し、蚊の封じ込めのために代々木公園が封鎖されるなど話題となった。海外との往来が盛んになるほど、デング熱が輸入され、国内感染が起きる確率も上がる。同様の事態が近いうちに再び起きる可能性は極めて高いと言わざるを得ない。

 感染地域へ渡航する際には、自らがデング熱に感染しないように、また日本に持って帰ることがないように、入念な蚊の対策が必要だ。










2019/08/11

フィリピンでデング熱猛威、7百人超死亡


( 2019.08.11 )

● フィリピンでデング熱の猛威、感染倍増、7百人超死亡


 フィリピンで蚊が媒介するデング熱が猛威を振るっている。保健省によると、1月から7月27日までの感染者は約16万8千人と前年同期比で約2倍に。死者は720人に達した。同省は流行宣言を出し長袖、長ズボンの着用や防虫剤使用を呼び掛けている。

 フィリピンでは6月から本格的な雨期に入り、蚊が大量発生したとみられる。7月21~27日には1週間だけで約1万3千人の感染が確認された。日本人に人気のリゾート、中部セブ島周辺も感染者が多い。保健省は他の政府機関や自治体などと連携し、蚊の繁殖地の調査や駆除を加速させる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
( 2019.08.07 )

● フィリピン・デング熱のワクチン使用禁止の方針を堅持!


 フィリピンは6日、蚊に刺されることによって感染するデング熱の全国的な流行を宣言する一方、世界初のデング熱ワクチンについては、使用禁止の方針を堅持すると明らかにした。

 フランシスコ・デュケ(Francisco Duque)保健相は記者会見で、「デング熱の全国的な流行」を宣言。1月1日から7月20日までの症例は、前年同期比98%増の14万6062件に上り、662人が死亡したと明らかにした。

 フィリピン政府は2016~17年、仏医薬品大手サノフィ(Sanofi)が開発したデング熱ワクチン「デングワクシア(Dengvaxia)」の接種キャンペーンを実施。接種を受けた70万人以上のうち子ども数十人が死亡したことを受けて、今年2月に同ワクチンの販売、輸入、頒布を禁止していた。

 デュケ氏は6日、サノフィによる同ワクチンの販売承認の再申請について、検討中と説明。一方、現在の流行への対策で、幼い子どもらに重い症状がみられた同ワクチンを使用する可能性は排除した。

 フィリピンは2016年、世界で初めてデングワクシアを使った大規模予防接種キャンペーンを実施した。

 しかしサノフィが翌年、感染歴がない人に同ワクチンを接種した場合、感染時により深刻な症状を引き起こす可能性があると明らかにしたことで、物議を醸していた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
( 2019.08.06 )

● フィリピン・デング熱の全国的流行宣言 600人死亡も!


 フィリピンでデング熱による今年の死者が622人に達し、当局が全国的な流行を宣言した。

 同国保健省の発表によると、今年初めから先月20日までに報告された患者は14万6000人を超え、昨年の同じ時期より98%増加した。

 当局は先月、デング熱の死者が450人を超えたことを受け、全国に流行警報を出していた。ただし現地のCNN系列局が当局者らの話として伝えたところによると、この時点で流行は一部地域に限られていた。

 その後さらに200人近い死者が出たことから、当局は対応強化に向けて全国的流行を宣言した。

 国内17地方のうち、流行宣言が出された計7地方には全人口の約4割に当たる4000万人あまりが住む。このほかにも複数の地方で千人単位の患者が報告されている。

 デュケ保健相は7日の記者会見で、「1週間当たり平均5100人の患者が出ている」と述べ、記録的な流行との見方を示した。

 保健当局は先月から、各地方の病院に数百人の医師や看護師を派遣し、緊急対策資金を交付するなどの対策を進めてきた。

 同国は2016年、仏企業が開発したデング熱ワクチンの接種をアジアで初めて開始したが、副作用の恐れがあるとの報告を受けて17年に中止していた。

 緊急対策当局の報道担当者は、ワクチン接種を再開する予定はないと述べ、ウイルスを媒介する蚊の駆除に集中する方針を示した。

 デング熱の感染はバングラデシュでも拡大し、先月末には24時間で新たに1000人以上の感染が確認された。









2019/08/05

世界中で猛威ふるう感染症の「チクングニア」とは!


( 2019.08.05 )

● アジア・アフリカの熱帯地域を中心に拡大注意!


 チクングニアというのは聞き慣れない名前だと思います。病気の名前でもあり、ウイルスの名前でもあります。日本にはチクングニア・ウイルスは、まだ存在しません。よって、これは「海外の病気」となります。

 だが、夏休みで海外にお出かけの方も多いと思います。 また近年、海外からたくさんの外国の方がおいでになるようになったのはご存じの通り。来年のオリンピック・パラリンピック、その後行われる万国博覧会。この傾向にはさらに拍車がかかることでしょう。

 とにかく海外に行く人、海外から来る人が多いこの時代に、外国の感染症の知識は欠かせません。ですから、これまではなじみのなかったこういう感染症も、ぜひ頭の何処(どこ)かに入れておいていただきたいのです。



● ヤブ蚊が媒介。デング熱との同時感染も

 もともとチクングニアは1952年にアフリカのタンザニアで見つかったウイルス感染症です。ヤブ蚊に刺されることでウイルスに感染します。

 ヤブ蚊が媒介する感染症としてはデング熱が有名ですが、実はデング・ウイルスとチクングニア・ウイルスが同時に感染することも珍しくありません。よって、デング熱を疑ったら、チクングニアも一緒に調べたほうがいいです。

 当初はアフリカの病気と思われていましたが、ほどなくアジアなど熱帯地方のあちこちで流行していることがわかりました。その後、2007年にイタリアで、2013年以降に南北のアメリカ大陸で流行が起きて、世界中でチクングニアが猛威をふるっていること、その活動範囲がどんどん世界的に広がっていることが分かりました。

 たとえば、米国では2014~16年の間におよそ4000例のチクングニアが診断されています。日本にもチクングニアを媒介するヤブ蚊がいますから、ウイルスを持ち込まれたら流行してしまう危険があるのです。 米国CDC(疾病対策センター)が作ったマップを見ると、南北アメリカ、アフリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界中でチクングニアが広がっているのが分かります 。


● 激しい筋肉痛や関節痛が続くことも

 ちなみに、チクングニアを媒介するヤブ蚊は上述のデング熱やジカ熱のウイルスも媒介しますから、なかなか厄介です。

 発症は蚊に刺されてから1週間以内に起きることが多いです。最初は熱とか倦怠(けんたい)感といった、これといった特徴のない症状が出ます。熱は10日以内に自然に下がります。特別な治療薬は存在しません。

 で、チクングニアの厄介なところはその後です。一定の患者さんで筋肉痛とか関節痛が体のあちこちに起きるのです。これが、痛い。とても痛い。体を動かすの辛(つら)いくらい、痛い。

 実は「チクングニア」という名前は、アフリカの言葉で「曲がる」とか「前かがみに歩く」というような意味なんだそうです。あまりの関節の痛みで体をねじ曲げてしまう、ということで、この病気の特徴をよく表現しています。痛みは数週間、場合によっては年の単位で続くこともあるのです。他にも、皮膚のぶつぶつや腹痛、頭痛などいろんな症状も見られます。


● 一定の割合で重症化。死亡例も

 チクングニアは一般的に自然に治る病気です。が、たくさんの人がかかると一定の割合で重症化します。前述の米国の例では、4000人近い発症者のうち18%が入院を必要とし、4人が死亡しました。あまり、油断してはいけませんね。

 ちなみに、チクングニアは感染症法における全数報告対象の4類感染症です。ま、もっとも届け出たからといってなにか特別な公衆衛生上の対策があるわけじゃないのですけどね。患者さんは病気を広げないよう、蚊に刺されない工夫は必要ですが、人から人には感染しないので家族や友人、職場の方はそんなに心配しなくて大丈夫です。


● 虫よけにはディート(DEET)の塗布を

 先進国でも途上国でも、海外に行くときはいろんな感染症対策が必要です。蚊に刺されないのも大切なことです。具体的な方法としては、肌の露出をできるだけ避けるとか、ディート(DEET)という虫よけを定期的に使うのが大事です。

 DEETの効果はその濃度で分かるのですが、20%のDEETで1~3時間おきに塗り直すと効果が高いです。30%なら5時間以上効果があります。昔は、日本では濃度の高いDEETがなかったので、途上国に行くときは「現地調達」でした。最近、ようやく高濃度のDEET入り虫よけを売るようになりました。空港などでも売っていてとても便利です。

 DEETは2か月以上のお子さんなら(短期的に使えば)安全に使えます。授乳中だったり、妊婦さんにも大丈夫とありますが、妊娠している間はあまり海外には行かないほうがいいと思います、まじで。

 ちなみに、蚊を寄せ付けないブレスレットとか、サプリメントとか、超音波などを発する電気製品とか売っていますが、概(おおむ)ね効果は確認されていません。使わないほうが賢明です。