2018/02/15

中国産・毒入り冷凍餃子事件


( 2018.02.15 )

● 中国産・毒入り冷凍餃子中毒事件!


・ 冷凍餃子事件の概要

 2007年12月下旬から2008年1月にかけて、中国の食品会社「天洋食品」が製造し、ジェイティフーズが輸入、日本生活協同組合連合会が販売した冷凍餃子を食べた千葉県千葉市・市川市、兵庫県高砂市の3家族計10人が、下痢や嘔吐などの中毒症状を訴え、このうち、市川市の女児が一時意識不明の重体になった。

 千葉県警察と兵庫県警察が餃子を鑑定したところ、「メタミドホス」など有機リン系殺虫剤が検出されたため、ジェイティフーズは同社製造の23品目、約58万点の自主回収を行うと発表した。

 その後の詳細な鑑定の結果、市川市の家族が食べて吐き出した餃子の皮から3580ppm(3.58 mg/g)、具から3160ppm(3.16 mg/g)の「メタミドホス」が検出された。これは検疫基準を大幅に上回り、数個食べただけで死亡する致死量であった。

 内閣府の食品安全委員会農薬専門調査会によると、人が一度に摂取すると健康被害を及ぼす「メタミドホス」の量(急性参照用量)は0.003 mg/kg 体重/日、一生毎日摂取し続けても健康に影響のない量(一日摂取許容量)は0.0006 mg/kg 体重/日である。

 「メタミドホス」は、日本では農薬として登録されたことがなく、中国では2007年1月から販売と使用が全面禁止されていたが、管理が十分でないため中毒による死者も出ていた。




・ 中国側の不誠実な対応に、日本国内で中国産食品に対する不信感高まる

 2008年2月5日、日本生協連は福島県喜多方市で販売されていた「CO・OP手作り餃子」(2007年6月製)から高濃度の「ジクロルボス」を検出したと発表した。同日、生協連は中国の調査団によるサンプル要請を受けて、同じ製造日の冷凍餃子8袋を未検査のまま中国側に提供していたことが後に明らかになり、証拠隠滅につながりかねないとして問題視された。

 2月8日には、同商品からトルエン・キシレン・ベンゼンが、2月20日には宮城県仙台市のみやぎ生協から回収した同商品から、ジクロルボス・パラチオン・パラチオンメチルの計3種類の有機リン化合物が検出された。パラチオンとパラチオンメチルは、日本では毒性が強いため1971年に使用が禁止され、中国でも2007年に使用が禁止されたが、それ以前は一般的な農薬だった。

 殺虫剤が餃子の包装の外側にも付着しており、一部の袋には穴が開いていたことから、毒物混入の経緯が問題となった。すなわち、中国から輸出された時に既に混入していたか、日本国内に入った後に混入したものかが焦点となった。

2月21日、当時の警察庁の吉村博人長官は定例記者会見で、

1.密封された袋の内側からも検出されており、袋の外側から薬物が浸透する可能性がない
2.薬物が日本で使用されているものと違って不純物が多く含まれていた
3.千葉、兵庫両県で中毒を起こした餃子は中国を出荷後、流通ルートに接点がない

などを根拠に「日本国内で混入した可能性は低いと考えている」と発表、警察庁としての公式見解を初めて示した。

 2008年2月22日、警察庁は中華人民共和国公安部との情報交換会議で、捜査・鑑定の結果を提供したが、中国公安部側は「混入の可能性は日中双方にある」と応じた。

 2月28日、中国・公安部刑事偵査局の余新民副局長が「中国で混入した可能性は低い」と述べ、日本国内での毒混入を示唆するとともに、「日本は鑑定結果を提供しない」と発言した。

 中国側の捜査担当局のこのような不誠実な発表に対して、同日、日本側の調査担当である吉村警察庁長官は、余副局長の会見内容について鑑定結果や証拠写真はすでに提供済みだとして、「看過できない」「不可解」と厳しく反論した。

 2月28日の会見で余副局長は、実験の結果メタミドホスが袋の外側から内側へと浸透したと発表したが、その後この実験に使われた袋の一部に穴が空いていたことが明らかにされている。当時の日本政府の福田康夫首相はこのような中国の姿勢を「非常に前向き」と評し、保守派を中心に国内の反感を招いた。

 こうして日中の主張は平行線となり、警察当局も捜査を一旦終了し、事件はこのまま真相が解明されないまま迷宮入りするかと思われた。

 中国当局は、詳細が判明するまで中国政府系メディアの新華社及び政府発表以外報道を控えるよう通達を出していたため、人民日報が手短に伝えた程度であったが、2月11日、徳島県にて冷凍餃子の包装の外側から微量の有機リン系殺虫剤「ジクロルボス」が検出され、販売店が防虫作業のために店内にて「ジクロルボス」を含む薬剤を使用した可能性があったことを発表すると、中国国内にて報道が急増、「日本人は毒餃子が中国と無関係と認めた」とプロパガンダを開始し、2月15日には、天洋食品工場長の言葉として「我々は最大の被害者」など事実とは異なる表現で報じられるようになった。

 また、同日に共同通信の記者が中国国内で「メタミドホス」を購入・所持し、中国の国内法に抵触したため一時拘束された。その結果、中国のネットでは「日本人は虚弱体質」「日本人が毒物を混入した」等の書き込みが増えることとなった。

 TBSテレビは番組内にて、これまでの経緯をまとめて報じ、中国語で「すり替え」を意味する「頂替」であると中国を批判した。このような中国当局の対応により、中国の一部の消費者に対し「天洋食品の餃子は問題ない」という認識がなされ、後の事件に繋がった。

 なお、この事件をきっかけに中国で日本米の輸入がストップされ、「中国政府による政治的圧力がかかっているのではないか」(輸出関係者)と指摘された。

 2008年3月5日、冷凍餃子最大手の味の素が、天洋食品からの原料購入停止と中国工場の安全管理強化を発表した。




・ 第2の冷凍餃子事件が中国国内でも発生していたことで事態が急変
 
 2008年8月6日、中毒事件発覚後、中国国内で回収された天洋食品製の餃子が市場に流通し、その餃子を食べた中国人が中毒症状を起こしていたことが報じられた。この中国における事例は6月中旬に発生した。
 讀賣新聞などは、7月初めの時点で既に国内の関係者にはこれに関して情報が伝えられていたとも報道した。

 さらにこの事実により、中国の政府側は日本側の主張通りである可能性が大きくなったとを、在中華人民共和国日本国大使館を経由して日本国政府に7月頃に伝えていたが、福田総理大臣および高村正彦外務大臣は、この事実を中国側の要請により即公表しなかったことが後で明らかになった。

 その後、この事件の中国側捜査担当の余副局長は更迭され、また、質検総局の局長が自殺したと報道されている。

 北京五輪終了後、胡錦濤主席は公安当局に対し本格的に捜査に着手するよう指示した。産経新聞は胡主席が訪日した際、日本人の本件に対する関心の高さに驚いたためだと報じている(日本国内でこの事件が、読売新聞の2008年読者が選んだ10大ニュース日本編、三菱総研が調査した2008年最も恐いと感じたニュースでそれぞれ1位を獲得している)。

 また、日本のマスコミ情報は報道規制の強い中国にも徐々に浸透し、中国でも日本のマスコミのほうが情報量も多く信憑性が高いと思う一部の知識人や国民が徐々に増えていった。

 2008年8月28日、中国公安部が在中国日本国大使館に対し、現在捜査中である旨通報があった。またこの頃、中国政府が工場関係者が毒物を混入した旨認めたという報道が一部であったが、日本政府は中国政府から情報提供は受けていないと発表した。

 2009年1月17日、中国当局が容疑者とみられる元従業員を数ヶ月に渡って拘束したが、1月19日、中国当局は日本側の警察庁に対し「事件の進展はない」と伝えた。

 1月24日には昨2008年に河北省人民委員会議が天洋食品の餃子横流しを指示し、それを食べた人が中毒を起こしていたことが分かった。これは新華社の英語版でも報道され、中国当局が初めて国内事件を報じることとなった。

 しかし、2009年3月6日、ギョーザを横流ししたとされる河北鋼鉄集団の王義芳社長が日本メディアの質問に対し、「この事実はあなた方が作り出したものです」と答え、横流しを含む中国国内での事実関係を全面否定し再度争う構えを見せた。

 2009年秋には日本国内の政権交代後、民主党の岡田克也外相が中国側に捜査状況に関する「中間報告」を求めたが、10月10日に行われた岡田外相と王家瑞対外連絡部長による会談で、王対外連絡部長は「刑事事件だ。解決は難しい」と否定的な見解を日本政府側に伝えた。

 2010年3月16日、ギョーザに毒物を混入させた容疑で天洋食品の元従業員が拘束された。日本政府の側には3月26日夜に通報された。動機は給料・待遇に対する不満や同僚とのトラブルで、個人的な鬱憤を晴らすためだった。

 朝日新聞は、中国国内では中国政府による新たな報道規制の通達がなされており、日本での報道との温度差があるとした。また中国メディアは、今回の件に関し日本の外相が中国に対して感謝の意を示したことは報道しているものの、以前日本側が抗議した内容に対する報道はほとんど確認できず、事件の全容が明らかになりつつある現在も、中国・捜査当局からの謝罪は報道からも確認できない。

2014年1月20日、天洋食品の元従業員に対して無期懲役が言い渡された。